2012年4月26日木曜日

Monkey Gone To Heaven おばあちゃんに“Flip条項の有効性の存否”を説明する日なんて来ないよ!


【仕組みを理解することなんか諦めて、金融商品を選んじゃおう!(最終回)】

 前回まで『理解していない金融商品をどのように選んだら若干でもマシだろうか?』という、考えようによってはトンデモないテーマでだらだらと語ってきた本シリーズ。今回が最終回のつもり。この部分だけ読んで『あっ、金融商品って内容理解しないまま投資してもOKなんだ!』なんて早合点しないで、一応、ここまでの話に目を通していただけるとうれしい。では、最終回、いってみます。

 今回は、金融機関に勤務されていて関連の知識やご経験が豊富な方からのツッコミにも耐えられるように、前回までに筆者が述べた金融商品選定方法についての補足説明のつもり。よって、一部、極端に専門的な話になるので、金融と疎遠な方にはメチャメチャ眠くなる話になると思うのであらかじめご容赦下さいな。

 筆者が一般の方の金融商品選定のモノサシとして使えると考える基準は、ソフトウェア業界で言うところの"枯れている"製品か否かという話に非常に似ている。ソフトウェア業界で"枯れている"製品と言えば、発売から長い時間が経過しており、多くのユーザーさんたちの様々なシステム環境で使われてみて、開発当初には開発者が想定できなかったような様々なバグ・不具合が出尽くしており、その� �応も完了済みであるような製品を指す。斬新な機能とか、目を見張る最新技術などは当然使われていないが、保守的なユーザーにとっては無難な製品であり、こういったソフトウェアを非常に好むユーザーさんも結構多い。金融商品で言えば、ごく一般的な社債で生じる発行会社のデフォルト(債務不履行)や、預金していた銀行の破綻のように、歴史を遡れば大量に"最悪の事態""不幸なイベント"の経験とその記録を調べることが可能なものが"枯れている"金融商品の優れているところ。


うつ病からのオーストラリアの失業者

 "枯れている"金融商品の強みは、"もしも…"の場合に、自分以外の関係者がその対応方法に非常に手馴れている点にある。非常に多くの方(弁護士、証券会社、銀行、発行会社、信託銀行などいろいろな関係者)が歴史を通じて"もしも…"の場合の対応方法に手馴れているために発生確率が非常に低い事象であっても、事前に"もしも…"の場合の実際の実務がどのようなものになるのか、かなり具体的に説明を聞くことが可能だ。で、いざ"もしも…"が生じても、その事前のイメージ通りの事態になる可能性が非常に高い。

 一方、歴史の浅い金融商品には、このようなことは期待できない。イベント発生時の"オペレーショナル・リスク"が予期せぬ流動性の喪失(換金が不可能になること)に直結し、流動性を何とかしようとすると、合理的に見積もれる残存価値の大半を放棄しなくてはならないという意味で理不尽な追加損失を被る(流動性の喪失でヤケクソになった投資家から二束三文でこういった金融商品を買い受けることは、金融機関・ヘッジファンドにとっては結構魅力的な商売のネタなのだ)。実は、ごく平凡な投資家さんにとって本当に怖いのはこの"ホールド・アップ"の危険性。だって、金融機関にはこの危険性から投資家を守ってあげようとするインセンティブがあるとばかりも言えないしね。このように複雑� ��金融商品の組成に関わる関係者が全て日本国内で完結する事例は、筆者が知る限り、まあほとんど無い。海外の金融機関が複数関与するものが一般的だ。ひとたび"もしも…"の事態が生じると完全にお手上げになるハズだ。"英語の壁"と"外国法の壁"と"高度な金融知識の壁"という三層構造を突破できる弁護士さんは希少だ。商品を組成した金融機関、もしくは販売した金融機関の言いなりになるしかない状況に陥る可能性が高い。


協力の意味は何ですか

 多くの仕組債に内在する、いわゆる"カウンターパーティーリスク"について具体的に考えてみると、筆者の言わんとしている点をもう少しちゃんとイメージいただけると思う。こんな事例はどうだろう。(以下、急に専門的な話に突入します。すみません。)

 スワップ取引が組み込まれた金融商品を考えてみて頂きたい。"クレジットリンク債"でもいいし、シンプルな"リパッケージ債"でも同じである。ある金融商品に内在されるスワップ契約において"Flip条項(Flip Clause)"がどのように記載されているか調べたことがある方いらっしゃいますか?そんなこと金融機関に勤務されている方であっても、ごく一部の商品組成に携わる方以外経験も知見も限られているだろう。"Flip条項(Flip Clause)"は、スワップ契約の一方が破綻して契約解除が行われる場合の担保資産の処分・支配の優先順位を定めている条項で、あらかじめ定義されたイベントの発生によって順序が入れ替わってしまう(Flipする)ことが定められており、リーマンブラザーズの組成したあるプログラムにおけるスワップ契約にもうたわれていた。この"Flip条項(Flip Clause)"の取扱いをめぐり英国最高裁と米国破産裁判所で正反対の判断がなされてしまったことは、ストラクチャード・ファイナンス業界(?)では有名な話だ。『アメリカ合衆国は"Flip条項(Flip Clause)"なんぞ認めないよ!』と事後的に言い渡されてしまい、関係者に混乱をもたらしたのだ。興味がある方のために、ちょっとリンクを張ってみたが、筆者は今その詳細な内容を紹介したいわけでは無い。(筆者よりもはるかに法律的に厳密、かつ明快に説明できる方から、『テキトーな説明するなよ!』と突っ込まれちゃうしね:笑)ポイントは2点。


コンプライアンスサプリメントは何ですか
  • この金融商品には"もしも…"の事態が生じたときにBase Prospectusや契約書に記載されている条項に米国破産法に抵触する可能性がある部分があり、その有効性の判断が裁判所に持ち込まれてしまった
  • 上述の判断を下す裁判所が英国と米国の2つの国の裁判所になってしまったこと、さらにその判断が対立してしまったこと

 これ以上混迷した事態なんかあるのかしら?と思えるほどのややこしさだ。書いてある約束事が事後的に無効だとか言われてもねぇ。絶句するしかないだろう。で、この金融商品の"ダメさ加減"を理解するのに英米における金融関連の法律や破産法を理解する必要は無い。"もしも…"が生じたときに、関係者が淡々と決まった処理方法を行うことができなかった事実が"ダメさ"を物語っている。こういう金融商品がダメな金融商品の見本だ(笑)。

      
                                            By Jorge Royan

 歴史が短い金融商品は、"もしも…"の事態が生じたときに何が生じるのかさっぱり分からない。ここが、筆者がしつこく強調したい危険性(不確実性)だ。金融機関で営業担当をされている方も、商品組成の部署の方などからイベントが生じるとどうなるのかレクチャーくらい受けているだろうが、自分で経験していないと全くリアルに理解できないだろう。歴史が短い金融商品の"オペレーショナル・リスク"はバカにならない。こんなリスクは、単にお金をたくさん持っているだけのお年寄りが取れるものではない。かすり傷でも致命傷になる可能性が高い。そしてそんなお年寄りに最後にトドメを刺すのは、販売した金融機関である可能性が高いんだよね(笑)。二束三文で買い取るでしょう?お年寄りがディストレス� ��系ヘッジファンドの存在を知っていて、手持ちの債券を何とかして高値で売ろうとじたばたすることなんかまず無いしね。


 一方、元本のかなりの額が吹っ飛ぶことも可能性としてあることを投資家側も知ってて商品を購入していた場合で、当人の期待に反して大きな損失を被ってしまったので狼狽のあまり裁判に訴えてみた…などという事例の多くで、筆者は投資家側にほとんど同情できない。金融機関にお勤めの方や金融知識や投資経験の豊富な方の多くも、だいたい筆者と同じような感覚をお持ちなんじゃないかな。筆者には、考えうるどのようなシナリオにおいてさえ、元本がゼロにならない、もしくは大きな損失を被らないなどという金融商品の方が思いつかない。あったら教えて欲しいくらいだ(笑)。前述した兵庫県朝来市のようなケースは、"分散投資"という小学生でもできる自衛策すらしてい� ��かっただけの話のように聞こえる。『リスクを認識できる十分な説明がなかった』は無いでしょう。この運用ご担当者の方は"日本銀行券"のリスクの説明なら、それを受け取る前に誰かから受けたことあるのだろうか(笑)。筆者は無いよ。

 ということで、以上『これと同じ金融商品、40年前もあったかしら?』などという単純な質問を使って、金融商品そのものの仕組を理解しないまま、金融商品を選ぶモノサシを考えてみたという話でした。このモノサシを使っても、投資や運用で損失を被る可能性からは決して逃れられないので、その辺りはご承知おき下さいね(笑)。



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