2012年5月1日火曜日

「ブリッジ」 原題:THE BRIDGE(製作・監督:エリック・スティール) - Symphonyeel!(シンフォニエール!)


悩める現代社会が抱える最大のタブー"自殺"
ゴールデンゲートブリッジ・・・世界最大の自殺の名所

「あの橋にはロマンがあるわ、でもそれは偽りよ」

カメラは、この美しい橋で何を捕らえたのか?
この映画は、史上初にしてこの問題に真正面から向き合った―!

【ストーリー・概要】
アメリカ合衆国、サンフランシスコ州の象徴とも言える橋、ゴールデンゲートブリッジ=金門橋。
設計者はJ・シュトラウスという人物で、完成は1937年。6車線の道路と歩道を持っている、サンフランシスコとマリン郡を繋いでいる交通要所であり、毎年900万人の観光客が訪れている。
全長:2790m、高さ:230m、海までの距離、66m。
そして・・・手すりの高さは、1.2m。
アメリカ合衆国を代表する観光スポットであると同時に、この橋は、「世界最大の『自殺の場所』」でもあるのだ。
1937年の完成以来、約2週間に一度の割合―約1300人もの人間が命を絶っているという事実を世界に伝えるべく、カメラは、2004年〜2005年の1年間という間、この橋を撮り続けた。
そして、橋で命を絶った人物の肉親や友人たちの無念の想い、飛び降りはしたものの奇跡的に命を取り留めた青年や、自殺志願者を食い止めた人物のインタビューを交え、自殺を減らす方法はないかを模索している。
この映画は、橋・・・それもただの橋ではない、ゴールデンゲートブリッジという場所で繰り広げられた「命の記録」―。
2006年トライベッカ映画祭でワールドプレミア上映されるや、全米で大激論を巻き起こし、全世界での映画祭で熱烈な歓迎を受ける一方で、あまりにもセンシティブな内容だという理由から、一部の保守的な映画祭では上映拒否も受けているという、ドキュメンタリー映画である。


運命の発熱

(パンフレット・予告チラシより一部引用アリ)

【詳細情報】
製作・監督:エリック・スティール
音楽:アレックス・へフス
エンディング曲:ハウィー・デイ「End Of Our Days」
配給:トルネードフィルム
原案:ニューヨーカー誌内「ジャンパーズ(飛び降りる人々)」(タッド・フレンド執筆)

【7つの実話の中心人物】
ジーン・スプラーグ(34歳)
エリザベス"リサ"スミス(44歳)
フィリップ・マニコー(22歳)
デヴィッド・ペイジ(50歳)
ダニエル"ルビー"ルーベンスタイン
ジェームス"ジム"シンガー(56歳)
ケヴィン・ハインズ(25歳)→一命を取り留めている


企業の統治体は何ですか

【コメント】
とある映画館で手にした一枚のビラ。それが、この映画との出会いでした。
「命をめぐる7つの実話」というキャッチコピーと、「ブリッジ」の「ジ」についた濁点が、通常の右上ではなく、右下についた邦題が印象的だったのに惹かれ、率直に、これは死ぬ前に観てほうがいいと思った映画でした。
大学時代に「生と死を科学する」というタイトルで、臓器の移植に関する法律やその教育の仕方、自殺に関することまでを卒業論文にした私がまず言えるのは「観て大正解!」ということ。監督のエリック・スティール、「あんたはエライ!」ということ(監督のエリック・スティール氏は、姉を交通事故で、弟を病気で亡くしています)、そして、ある種の意見や感銘を持った人は「幸せな人」、「何も感じない、つまらない」という感想しか持てなかった人は「おめでたい人」だよナ、と思いました。
この作品はR−15指定になっていて、所々に、衝撃的なシーンが登場します。しかし、これが現実なのだ、ということを知った瞬間、身に震えが走りました。だって、1.

だれが最も厳しいアメリカの大統領だった
2mしかない橋の手すりを、ふわり、と乗り越え、夢の中の出来事のように人が落ちていくのですから―!
「見たくない」⇔「目を反らせられない、本物の、現実の出来事」の間に位置する複雑な気持ちが渦を巻きます。
だから、「命というモノを考える」きっかけ・原因を作ってくれる経験をさせてくれる映画だなと思います。
語りの部分は、家族、友人などのインタビューと自殺未遂者自身のものなのですが、一つ一つ語られていくのではなく、誰かの語りが終わって次の人物の話へいった、と思ったらまた前の人物の話に戻ってくる、という形をとっています。残された人のインタビューは交互に折り重なり、その間に、ゴールデンゲートブリッジの周辺の景色や、ビデオを早回しするというカタチで、橋の一日の様子を映していたりもします。そういうコントラストが、橋を美しくも見せ、恐ろしい場所にも思わせます。
語られている内容は「自分で『飛び降りるという方法』で死を選んだ」ということに対する痛切な思いばかりか、というとそうでもなく、自殺した人とその関係にあった人のやりとりも赤裸々に描かれているのが大きい特徴なのです。
まさに自殺願望が心を渦巻いている人を含むの全ての人間に対して「向き合わなきゃ、このありさまと!この現実と!」という映画なのです。
これと似たようなものに、「日本の性教育」がありますね。アメリカを問わず、自殺をオープンに語る事はしませんが、日本は生と死の問題どころか、生の営みである「性」について、特に戦後、真剣に考えなかったこと、オープンに議論してカタチにしなかったコトを反省すべきではないかな、ということを、大学の恩師に、社会人になって間もない頃言われたことがあり、それを思い出します。


自殺=身勝手、現実逃避と思っている人は、ぜひこの映画を観ることをオススメします。
だって、自殺に明確な理由なんてないのですもの。引き金となるものはいっぱいあっても・・・。

でも悲しいかな、この映画は、「『完全な・完璧な』自殺予防・抑制の喚起の映画」にはなっていないかもしれません。現代社会を取り巻くさまざまなモノや、宗教など歴史の古いものを加味したとしても、自殺というモノはなくなることはないでしょう。
自殺願望に直面している人、自殺願望者がそばにいる人、「自分の大切な人が自殺してしまった」という人、全てに言えるのは、「無理をして生きていてもどうせ死んでしまうんだ」という短絡的な捕らえではなく、かといって「私がもっと優しく接していれば」でもない、「その人が決めたことだからどうしようもなかったんだ、止めることは出来なかった」と捕らえるでもない、「なんで自殺なんかしたんだ」と責めるでもない―。そう、答えなんてないのかもしれない、私はそう考えます。
人間としてイキイキと生きる資格があるのなら、人間として安らかに死ぬ資格があったっていいじゃないか、そう思うのです。不治の病で安楽死・尊厳死が実施されることはありますが、自殺も実はそのひとつなのではないか―この映画を観てわたしはそう考えました。だから、「知らない間に、いつの間にかどこかに行っていなくなっていて死んでしまっていた」場合は仕方がないとしても、せめて、自分が愛している人の死に向き合った場合は、最期まで優しく、温かく見守るのが人間としての義務ではないか・・・そう思います。
そして、この映画が誰にでも観られるDVDなどになって出回り、教育その他の現場で大いに役に立つことを願っています。


最後に、パンフレットにあった監督のインタビュー内から。
「実は9.11の同時多発テロの日、ワールドトレードセンターが崩壊するのを目撃していたんです。ビルから飛び降りて人々が命を立つ瞬間も目にし、それは生涯忘れられないイメージとして私の脳裏に焼きつきました。(中略)9.11では物理的な地獄から、そして橋の上では心の地獄から逃げたいと思った人々が飛び降りたんだな、と感じました。あらゆることに絶望して死んでしまいたいと思うことは誰にでもある。(中略)なぜ大変なことが自分の身に降りかかっても頑張ろうと考える人と、もう一日も生きていけないと感じる人がいるのか。その間にある線は脆く、なかなか理解しがたいものだけに・・・(以下省略)」



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